いぬのプーにおそわったこと~番外編

Can ! Do ! Pet Dog School

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8.専門学校へ
 
 
 

 


 

 
 2000年に、成城に常設スクールを立ち上げ、その年の秋には、日本動物病院協会、JAHAの年次大会で講演を行いました。
 その講演を見に来ていた人たちの中に、盲導犬協会でお世話になっているSさんも来ていました。彼女は、盲導犬協会の嘱託以外にもその前年より、専門学校で講師も勤めていました。
「私が講師をしている学校の副校長さんです」
 講演の後にSさんから声をかけられ、I副校長を紹介されました。
 その専門学校は千葉にありました。伝統ある学校でしたが、動物関連分野に手を広げたのは数年前からでした。ペットの数が年々増えていた時代です。それに呼応するかのように生徒数も増え、学校では新しい講師を探していました。
 Sさんは副校長に、新しい講師候補として私を紹介していたようでした。講演を見れば、どういった授業をするかも想像がつきます。そうした理由から、I副校長は講演を聞きに来ていたのです。
 I副校長のお眼鏡には、かなったようでした。翌年の2001年から、私は専門学校の非常勤講師という仕事も始めることとなったのです。
 私の受け持ちは6コマ。家庭犬のしつけ実習というのが、その授業名でした。週に1日、朝から夕方まで授業を行います。
 新学期が始まりしばらくは、電車で学校へ出向きました。自宅から京王線で馬喰横山まで行き、そこで総武線に乗り換え千葉駅まで向かいます。さらにそこで京成電鉄に乗り換え、学校のある学園前駅まで行きます。通勤時間約2時間という、道のりでした。
 車ではなく電車での通勤を選んだのは、首都高速道の朝の渋滞が心配だったからです。渋滞に巻き込まれてしまえば、遅刻してしまうかも知れません。
 とはいえ、電車で通勤を続けたのは、ひと月間ほどでした。
 総武線も京成電鉄も、乗り遅れるとそれぞれ次の電車まで20分は待つことになります。乗り換えが2回ともなると、京王線に遅延が生ずれば、到着時間は40分遅れる計算となります。遅刻への不安を払拭するためには、万が一のことを考え、できないことがわかったのです。それと、片道2時間の通勤、その疲れは想像以上でした。
「今日もお留守番だよ」
 プーを伴って行けないことも気がかりでした。車ならプーも連れて行けます。
 車で行く場合は高井戸あるいは用賀から首都高速道に乗り、湾岸から東関東自動車道に入り、宮野木で京葉道路に入り、蘇我インターで降ります。早めに家を出れば首都高速道の渋滞に巻き込まれることもないでしょう。千葉のインターチェンジで休めば、遅刻のリスクも電車より少ないと考えました。
 講師の仕事を始めてひと月ほどして、私は車で学校まで行ってみました。 
 予想通り早めに家を出れば、渋滞に巻き込まれることはありませんでした。早起きをして首都高を抜けてから仮眠を取れば、疲れも電車通勤ほど感じませんでした。通勤時間も、途中の休みを除けば1時間半〜2時間。電車でのそれと同じか、逆に短いくらいだったのです。
 それ以降、私は車で学校に行くことにしました。もちろん毎回プーも一緒です。プーと一緒の授業は心強いモノを感じました。頼りになる相棒が、いつでもそばにいる、そんな感じです。
 プーはすぐに、学生達の人気者になりました。
 学校には犬を自由に放せる大きなフィールドがありました。おそらくプーも学校へ一緒に出向くことは楽しかったことでしょう。
 2年目の授業は、市原まで出向くことになりました。
 前年まで通っていた校舎を建て替えるということで、市原にある仮の校舎で授業が行われたからです。アクアライン経由だと蘇我の校舎に行くよりも通勤時間が短縮できることがわかり、私はその経路で学校へと通いました。
 市原へは1年間通ったのですが、忘れられない出来事があります。
 その日は台風が接近していました。帰るときには、強風のためにアクアラインが通行止めとなっていました。そこで東関東自動車道経由で帰ったのです。
 断続渋滞が続いていました。レインボーブリッジにさしかかったところで、私はトイレに行きたくなりました。橋を渡った所にはパーキングエリアがあります。
 渋滞していなければ、5分もかからない距離ですが、そこから渋滞の列は遅々として進みませんでした。そしてなんとパーキングエリアに入る側道が見えるところにたどり着くまで、その時は1時間以上を要したのです。しかも、パーキングエリアへの側道が見えてきてからも、渋滞はいぜんとして続いていたのです。
「もうだめだ」
 私は限界を感じ、決意しました。
 コンビニのビニール袋の中に、車内で排尿をしたのです。
 私の決断は正しかったでしょう。尿を処理するためにパーキングエリアに立ち寄ったのですが、トイレにたどり着くまでには、私の先の行動から15分は要したからです。もし我慢をしていたら、どうなっていたことか。
 ちなみにその日は、全行程5時間をかけて帰ってくる結果となりました。
 プーもさぞかし疲れているかと思いましたが、彼はいつもと変わらず、
「あ〜よく寝た」
 とでもいいたげに、車から降ろすと大きな伸びを、ひとつ見せたのでした。



※著者コメント

 この話は、本の中の「いぬのきもちデビュー」という話の前に入れていました。
 プーをパートナーにスタートしたインストラクターとしての世界は、どんどんと広がっていきました。専門学校の講師の仕事も然り、メディアのお仕事も然り。
 そしてプーはいつも期待通りに、私のサポートをしてくれたのでした。